自民党改憲草案8章への前注
第8章 地方自治
本章は日本国憲法において、国家体制上採用・編入されたものである。
日本国憲法では「地方公共団体」という名で呼ばれているところのものが、改憲草案では
「地方自治体」という名で呼ばれている。
地方自治体という名称は、むしろ最近ではよく使われているものであるので、それほど違和感を覚えることもないだろう。「自治」体なのだ、というニュアンスも強く出るため、むしろ好んでこちらを使う論者も少なくない。
現行法制上、地方公共団体は二層に分けて観念されている。
一つは都道府県、
もう一つは市町村である。
帝国憲法下の法制では、都道府県の長官・知事(今で言う知事)は、大日本帝国の中央政府の選ぶ者であった。多くは内務官僚であったと言われている。
府県会のような議事機関の議員は住民の選挙によって選出されるものであった。
半分(以上)は国の出先機関であり、これを地方自治を担う者であったと位置付けるのは容易ではない。
これに対して、市町村は現行の位置付けとそれほど変わらない、住民の共助や自治の及ぶ大きさのものとして捉えられる。
かつては、自然村と言われる規模のものであったとされるが、明治以降、一貫して町村合併政策が推進され、結果現在のような大規模市町村が支配的になったものである。
しかし、自治体として自らの事務を処理しうるという位置付けは一貫して見て取れるとは言えるのではないか。
この点、基本的には改憲草案でも地方自治という考え方自体は保たれているように見受けられる。
ただ、自治体の種類は基本的には二種類であり、詳細は法律で定める、という書き方がされている。
基礎自治体は基本的には市町村であろう。では、広域自治体は都道府県だろうか。
十年程前であれば、憲法改正で道州制を導入しよう、というような議論もあったかもしれない。それが直接的には明示されないで論点回避されている辺り、政策論の議論の儚さを感じずにはいられない。
近年は、都道府県こそ重要である、とまでは言われないにしても、合区反対!とか議員は都道府県代表だ、と言わんばかりの政治的意見が目立つところだ。
広域自治体が道州になるのであれば、都道府県代表論のような議論をする余地も完全になくなる。余計な議論が減ると喜ぶべきか、都道府県は残すべきだと反発するべきか、どこで問題を処理するのかは興味あるところと言える。