自民党改憲草案94条の検討

[条文案]

94I 地方自治体には、法律の定めるところにより、条例その他重要事項を議決する機関として、議会を設置する。
94II 地方自治体の長、議会の議員及び法律の定めるその他の公務員は、当該地方自治体の住民であって日本国籍を有する者が直接選挙する。

 

[1項]

議決機関として議会を設置することを述べる。

「議決」機関という位置付けは、現行憲法典の「議事機関」という位置付けとどう変わるか。

ニュアンスの問題のようだが、後者は、議論をするのだという意味合いが強いように思われる。地方議会では当然に代表質問がおこなわれているものであり、これは議決というのとは全然違う機能を果たしている。首長への要請や激励、首長や知事(・市長等々)部局などに対するまさに字義通りの質問、統制の機能を地方議会が全体として有していて、その一環として代表質問がなされるわけだ。

議決機関というのは、議会の本質的な役割、あるいは憲法上の機能を、ただ条例や予算等の重要事項を通すか通さないか採決するだけのマシーンとする意味合いを含んでいるのではないか?

もちろん、自民党の(国会)議員や地方議員は、日々の議員としての仕事をしていく中で、調査や質問のために大変な労力を費やしていることはよく知られている。今そうであるのはもちろんのこと、それは自民党結党の昔からの伝統である。そんな自民党が、議会を骨抜きにするような意図の下にこのような条文を作るわけがない。つまりは、上記のように「ニュアンスの問題」に過ぎないと読むことになるわけである。

ただ、そのような疑いを抱かせること自体が好ましくないので、この条文の表現は変えるべきであろう。その意味で、本項は不適切な条文である。

 

[2項]

・現行法で言うところの、地方公共団体の長、つまりは知事市町村長等、

・地方議会の議員、

・現行憲法典の言う「吏員」、改憲草案の「公務員」(ただし、その全てではなく、法律で定める特定の役職の者等に限る)、

これらを選挙によって選出することを規定する。

 

憲法典レベルでの被選挙人資格は規定されない(基本的には法律で定めることが予定されることと思われる)

選挙人の資格につき、当該自治体の住民であることに加え、憲法政策上「日本国籍者」であることを要求しようという改憲案である。これは、非日本国籍者への地方参政権の付与を押しとどめる憲法政策を採用しようと読む以外にはありえない案であると見るべきだろう。

地方参政権付与については様々な議論があったところであるが、それについては深入りする必要を見出せない。

 

「直接選挙」は、間接選挙の対義語として、後者を採用しないことを明言する表現となる。間接選挙による選出の代表例としてはアメリカ合衆国の大統領や日本の内閣総理大臣を挙げられるだろう。地方自治体の体制は、現在言われているところの二元代表制、つまり議会と首長の双方を住民が直接の選挙で構成する体制を堅持する、という方針が示されているものと読める。